カテゴリー: AI社会変化・未来予測

  • 人型ロボット競争の評価軸、走る速さから「働ける手先」へ

    人型ロボット競争の評価軸、走る速さから「働ける手先」へ

    北京で開幕したWorld Humanoid Robot Gamesで、中国製の人型ロボットが100メートルを9.39秒で走ったのだそうです。

    比較条件の詳細までは詳しく示されていないものの、前年から身体能力を急速に伸ばしていることが分かる記録となっていて、走行やダンスのような大きな動きは映像でも伝わりやすく、人型ロボットの進歩を象徴する成果としては驚くべき進化となっています。

    一方、今年の競技では、ネジ締め、ボトルを開ける作業、ピンセットで物をつまむ操作も評価対象になっているようで、走る速さとは対照的に、どれも目立たない作業になっているとはいえ、工場や店舗などで仕事を任せるなら避けて通れない能力でもあります。

    同じ競技会で試されている二種類の能力は、人型ロボット競争の変化を表していて、動けること自体に価値があった段階から、現実の物を扱い、人間の仕事の一部を担えるかが問われる段階へ移り始めてきているようです。

    派手な動きから、仕事に近い競技へ

    走行やダンスなどでは、姿勢を保ちながら身体全体を動かす性能をみることができ、人型ロボットが転ばずに走り、複数の動きを組み合わせられることは、機体の完成度を示す材料となるのですが、実際の仕事の現場で求められるのは、このような大きな動作ではありませんよね?

    ネジを締めるには、対象の形に合わせて手を動かさなければならないですし、ボトルを開ける作業と、ピンセットで物をつまむ操作では、扱う物の大きさも動かし方も大きく異なります。

    単に腕や指を動かせればいいというわけではなく、目の前の対象に応じて操作を変える必要があり、こうした違いが、走る・踊る競技と実作業競技の間にはあります。

    ロボット分野への投資額が増えるにつれ、動作を披露できるかだけでなく、投資に見合う仕事を実際に担えるかが問われるようになり、競技に細かな作業が組み込まれたことも、評価の焦点が「人のように動けるか」から「作業を任せられるか」へ移りつつあることを示しているようです。

    人型ロボットの実用性を考える場合、映像の派手さだけでは評価することはできません。

    ネジ締めやピンセット操作を競技として評価する動きは、仕事に必要な能力を具体的に試すものであり、ただ歩いたり走ったりする機械ではなく、周囲の物に合わせて動作を選べる機械へ進めるかが問われ始めてきています。

    物を扱う仕事は、速く動くだけでは成立しない

    決められた距離を速く走る能力と、形や条件の違う物を扱う能力は全く異なる。

    走行では身体全体を一定の方向へ動かす一方、実作業では対象ごとに力の加え方や動かす範囲を変えなければならないですし、ネジ、ボトル、ピンセットは、同じ手先の動作とはいえ、その動きは全く別のもの。

    現実の物には、摩擦、重量、形状の違いがあり、作業中に対象がずれたり、想定した位置に収まらなかったりするなど、予測不能な動きも起こりえます。

    そのたびに状態を捉え直し、次の動作を調整する必要があるため、あらかじめ決められた動きを再生するだけでは仕事になりません。

    この違いを踏まえると、「人型ロボットは手先が重要になる」という表現は、指や関節を細かく動かせるという意味だけではなく、目の前にある物の状態を把握し、その物に適した動作を選び、途中の変化にも対応する能力まで含んでいます。

    モーターの性能は引き続き必要となりますが、それだけでは実作業の安定性を高められません。

    競争の中心は、機体を速く力強く動かすことから、現実世界を理解したうえで手を動かすAIへ移り始めていて、身体能力の向上が実用化の土台だとすれば、その能力を仕事へ結びつけるのがロボットAIの役割になっていきます。

    次の競争を左右するロボットAIと動作データ

    UnitreeやACE Roboticsなどの中国企業は、次の競争は身体能力ではなく「ロボットの頭脳」になると説明しており、ここでいう頭脳というのは、ロボットが周囲の状況や対象物を捉え、それに応じた動作を選ぶAIのことを指していて、企業側も、機体が動けることの先に、現実の作業へ対応する能力があるかどうかを見ている。

    ただし、実環境で使えるAIを育てるには、学習に使う高品質な動作データが必要となり、ロボットがネジ締めやボトル開けを安定して行うには、それぞれの作業で人間がどのように手を動かし、対象の状態に合わせて調整しているかを学ばせなければなりません。

    現状では、その材料となる動作データが不足していて、文章や画像のデータとは異なり、動作データには、物の形や重さ、手の位置、動かす順序といった現実の条件が伴います。

    実作業を扱うAIでは、似たように見える動作であっても、対象や環境の違いを含んだデータが求められ、この蓄積が不十分であれば、限られた条件では成功しても、別の条件へ対応できない可能性が残ります。

    ACE Roboticsは、工場などで人間の動作を収集し、数千万時間規模のデータ蓄積を目指していて、達成時期やデータの内訳は示されていないのですが、この規模の計画を掲げていること自体、実作業能力の向上に大量の訓練材料が必要だと認識されていることを示しています。

    人型ロボットの性能競争は、外から見える機体の動きだけでは捉えにくくなっており、どのような動作を学習させるのか、そのためのデータをどれだけ集められるのかまでが、実際に働けるロボットを作るうえでの競争領域になっています。

    評価されるのは「一度できたか」より「続けられるか」

    実作業では予測不能な条件への対応が必要になるため、人型ロボットは家庭より先に、環境をある程度固定できる場所から普及する可能性が高く、工場、倉庫、店舗、ホテル、警備、配送拠点などであれば、扱う物や作業手順を一定の範囲に絞りやすく、ロボットが学習する条件も限定しやすい。

    そこで問われるのは、競技やデモで一度成功したかではなく、何時間連続で動けるのか、人間が途中で介入しなくても作業を続けられるのか、同じ作業を安定して繰り返せるのかが、実用性を測る基準になっていくと考えられます。

    走行やダンスには、人型ロボットの身体性能を確かめる役割があって、その価値がなくなるのではないのですが、それだけで仕事を任せられるとは判断できないということ。

    高品質な動作データが不足している現状では、異なる条件に対応しながら細かな作業を継続できるかが、実用化までの距離を示しています。

    100メートルを速く走るロボットと、ネジを締めるロボットは、異なる能力を見せ、前者は身体能力の高さを示し、後者は現実の仕事へ対応できるかを試しています。

    次に人型ロボットの進歩を見るとき、確認すべきなのは派手な記録だけではなく、現実の物を扱い、同じ作業を人間の介入なしにどれだけ安定して続けられるか。

    人型ロボット競争の本番は、目立つ動作の披露から、地味な作業を確実に積み重ねる能力の検証へ移り始めてきています。

  • ChatGPTは18歳未満だと「答え方」まで変わる。10代向けAIで変わる宿題と安全対策

    ChatGPTは18歳未満だと「答え方」まで変わる。10代向けAIで変わる宿題と安全対策

    ChatGPTの利用者が年齢を13~17歳と登録するか、システムが18歳未満と推定すると、10代向けの利用環境へ自動的に切り替わる。

    これは本人が「子ども向けモード」を選ぶ方式ではなく、アカウント情報や利用状況などから年齢を推定し、10代だと推定された利用者にも専用の設定を適用することになる。

    変わるのは、有害な内容への制限だけではなく、宿題の答えを求められても、完成した答えをすぐ出すのではなく、考え方を段階的に示す学習モードへ誘導する。

    電卓なら入力した式の答えを返し、検索なら答えが載ったページを並べるが、10代向けChatGPTには、答えを早く渡すよりも、利用者に途中の思考を続けさせる機能が加わった。

    年齢で変わるのは閲覧制限だけではない

    10代向けの安全対策では、過激な暴力、自傷行為、危険な流行、健康を損なう身体イメージ、性的・恋愛的な役割演技などへの制限が強化され、AIを現実の人間関係の代わりとして扱う応答も抑えられる。

    従来の年齢制限は、「この内容を表示するか」という線引きが中心だったが、対話AIでは、答え方や聞き返し方、AIと利用者の距離まで変わってくる。

    宿題の扱いにも、同じ設計が表れ、答えそのものを完全に隠すのではなく、利用者へ質問を返しながら、解き方を一緒に進めていく。

    学習へ使いたい子どもと、宿題を短時間で終えたい子どもを、入力された一文だけで正確に分けるのは難しい。

    だからこそ、最初から解答を渡さない方向へと設定されている。

    年齢推定には誤りも起こり得るだろう。

    18歳以上の利用者が10代向けと推定された場合や、10代が成人として扱われた場合に、訂正方法が使いやすいかどうかも実際の運用では欠かせないはず。

    保護者向けの管理機能も用意されているとはいえ、親が会話内容を常に読む仕組みではないし、利用時間や一部の安全設定を管理しながら、10代本人の私的な会話まで一律に公開しない設計が求められる。

    AIが答えを完成させたのか、解き方を説明したのか、その説明を子ども自身が再現できるのかで学習内容は大きく変わってくる。

    10代向けChatGPTが止めようとしているのは、AIの利用そのものではなく、問題文を入力し完成した答えを簡潔に出すことであり、考えることがが抜ける使い方を停止していく。

  • AI競争を左右する「電力」。成長を阻む物理インフラの壁

    AI競争を左右する「電力」。成長を阻む物理インフラの壁

    AIは、利用者の目には画面上で動くデジタルなサービスとして映るのですが、その処理はソフトウェアだけで完結しているわけではありません。

    生成AIを動かすためには、大量の電力と、それを支える設備への投資が必要不可欠なのです。

    AI利用が拡大するなか、電力や半導体、データセンター、冷却設備といった現実のインフラ不足が改めて注目されていて、モデルやサービスの性能に焦点が集まりやすいAI競争は、それらを安定して動かす物理的な基盤まで含めて捉える段階に入ってきています。

    AIは電力と設備の上で動いている

    AIを、利用者に提供するためには、処理を担う半導体と、それを収容するデータセンターは欠かせないものであり、どんなにソフトウェアが高度になっていったとしても、実際に計算を行う装置と、その装置を置いて稼働させる施設がなければ、サービスは成り立ちません。

    私たちが普段使っている画面に表示される回答の背後には、こうした物理的な設備が存在しているんです。

    さらに、半導体やデータセンターを動かすための電力は必要ですし、稼働する設備から生じる熱に対応する冷却設備も、AIを支える基盤の一部となっています。

    半導体だけを確保すれば十分なのではなく、電力、施設、冷却までがそろって初めて、AIを継続的に提供できるようになるわけなんです。

    なので、この構造ではどこか一つの条件が不足してしまうと、他が整っていたとしても十分に生かすことはできません。

    半導体、データセンター、冷却設備、電力の不足を同時に意識しなければならないのは、それぞれが独立した問題ではなく、AIの稼働を支える一連の条件となっているんです。

    一見すると、生成AIはソフトウェアの話に見えるのですが、その成長には大量の電力と設備投資が伴っていて、新しい機能を開発できるかどうかだけでなく、必要な設備と供給力を確保できるかどうかも、AIの成長を左右する条件になっています。

    利用拡大がインフラ制約を浮かび上がらせる

    AIの利用機会が増えれば、それを支える半導体やデータセンター、電力、冷却設備への需要も伴って増えていくわけで、利用者がソフトウェアを利用するシーンが広がるほど、画面の向こう側では処理を担う設備を動かし続ける必要があり、サービスの普及と物理インフラへの需要は、切っても切り離せない関係にあります。

    そこで大きな問題になってくるのが、必要なインフラを十分に確保できるかという点で、利用が拡大しても、支える設備や電力の整備が追いつかなければ、成長をそのまま維持することはできません。

    インフラの制約が、成長を妨げるボトルネックとして意識されるようになった背景には、この関係があるからなんですね。

    このボトルネックは、AIへの需要や技術開発だけでは成長の条件を説明できず、物理的な供給力も合わせて考える必要があるという構造となっています。

    市場でもAI投資の継続性が議論され始めたことも、この構造と関係していて、AIへの期待だけでなく、その期待を支えられるだけの電力や設備を確保できるかどうかも、投資を考える際の評価対象になりつつあります。

    AIの利用が伸びれば、自動的に成長が続くというものでもなく、ソフトウェアを生み出す力と、それを現実に動かす基盤を整える力がそろって初めて、利用拡大を支えることができ、AI競争の条件は、技術の性能だけでは測れなくなってきています。

    AI競争はインフラ投資の競争にも

    今後、発電や半導体、電力網、冷却技術への投資は、さらに重要性を増す可能性があります。

    その理由は、AIを動かす設備を増やしても、そこへ電力を届け、安定して稼働させる基盤が伴わなければ、その能力を十分に活用できないから。

    このため、今後のAI競争は、モデルやサービスの開発だけでなく、その稼働を支える基盤を確保する競争へ広がる可能性があり、半導体と電力のどちらか一方だけが進化していけばいいというものでもなく、データセンターや冷却技術も含め、複数の条件を一体として整えられるかどうかが、今後の成長の余地に関わってきます。

    発電や電力網への投資がAI競争と同じくらい重要になる可能性も、こうした連動関係から生まれ、AIの進歩を技術開発の速度だけで見るのではなく、それを支える設備投資がどこまで進むかという視点からも見続ける必要があります。

    デジタルに見えるAIも、現実には電力と設備の上で動いているわけで、利用が広がるほど、その物理的な条件は背景ではなく、成長を左右する要素として存在を示してきます。

    これからAIの動向を見る際には、モデルの性能やサービスの拡大に加え、発電や電力網を含む基盤への投資も重要な観察対象となり、AIの次の成長条件は、画面上の機能だけでなく、その背後にある電力と設備にも表れるといってもいいでしょう。