カテゴリー: AIビジネス戦略

  • サブスクは「入りやすさ」より「やめやすさ」で選ばれる

    サブスクは「入りやすさ」より「やめやすさ」で選ばれる

    サブスク事業者が見るべき指標は、契約数だけではなく、今後は、解約手続きの簡単さも評価対象になりそう。

    2026年7月、ニューヨーク市が契約と同程度に簡単な方法で解約できる「Click to Cancel」規則を採用したのだそうです。

    オンラインで契約できるサービスは、オンラインで解約できる仕組みが必要で、規則は2026年7月23日から発効されるようです。

    解約画面は、企業姿勢が表れる場所に

    これまで多くのサービスは、契約の入口をできるだけ短く簡単にされてきました。

    メールアドレスとカード情報を入力すれば、数分で利用を始められなんていうのは当たり前で、手軽にサービスを利用できる状況。

    しかし、その一方、解約には別の手続きが必要でした。

    • 電話をかける。
    • 営業時間内に担当者と話す。
    • 複数の画面を移動する。
    • 引き留め案内を何度も断る。

    契約は簡単でも、解約には時間がかかる設計は、どこの世界でも同じ。

    この仕組みは「ローチモーテル」と呼ばれるダークパターンの一種で、入るのは簡単ですが、出るのは難しいという設計で、企業側には、解約率を下げられるという最大の利点があります。

    しかし、利用者が手続きを諦めて料金を払い続けているという状況であれば、大きな問題であり、サービスの本質から外れてしまいます。

    契約者数は維持できるかもしれないが、信頼は失われる。

    アメリカでは連邦規則が止まり、市単位の規制が進んだ

    米連邦取引委員会も2024年、同様の「Click to Cancel」規則を決めていたのですが、2025年、連邦控訴裁判所が手続き上の不備を理由に規則を無効としました。

    無効となったのは規制内容そのものではなく、事前の影響分析が不足していたことが主な理由で、今回のニューヨーク市の規則は、この空白を市の消費者保護制度で埋める動きとなります。

    解約規則は、解約方法を契約方法と同程度に簡単にする制度。

    退会を止めるより、戻る理由を作る方が強い

    解約を難しくする設計と、再契約される設計は全く異なっているといってもいいでしょう。

    前者は、手続きの負担で顧客を残し、後者は、価格や機能への納得で顧客を戻します。

    短期の売上だけを見れば、解約の壁を高くする方が有利なのは当然なのですが、長期的には、問い合わせ対応が増えるうえ、SNSで批判される余地も生まれます。

    一方、解約しやすいサービスは、一時的に解約率が上がるとはいえ、契約時の心理的な負担を下げられるうえ、「いつでもやめられる」と分かっていれば、また簡単に試しやすくなります。

    今後、利用者が確認すべき項目は価格だけではありません。

    • Web上で解約を完了できるか
    • 自動更新前に通知が届くか
    • 無料期間の終了日が明確か
    • 休止やプラン変更ができるか
    • 必須料金を含む総額が表示されるか

    企業側も、これらを利用規約の中へ隠すべきではなく、契約画面と同じ場所で確認できる設計が基準が必要となってきます。

    サブスクを選ぶとき、申し込みボタンを押す前に、解約ページまでを確認するようにしておくことが、自分を守るための秘訣とも言えます。

  • OpenAIが独自AI半導体「ハラペーニョ」を発表。推論特化チップでAIコスト競争が新段階へ

    OpenAIが独自AI半導体「ハラペーニョ」を発表。推論特化チップでAIコスト競争が新段階へ

    OpenAIが、生成AIの推論処理に特化した独自半導体「ハラペーニョ」を発表しましたね。

    この目的は、ChatGPTの応答速度向上と運用コスト削減であり、これはAIモデルの競争から、ついにAIインフラの競争へと軸足が移り始めたことを示す出来事といえるでしょう。


    設計は、OpenAIが担当し、開発はBroadcomと共同で進められたようで、2026年後半からデータセンターへ順次導入される予定となっていて、ChatGPTをはじめとするサービスで利用される見込み。

    このチップは学習ではなく、ユーザーへの回答生成である「推論」に最適化されているようですね。


    なぜ独自半導体を開発したのか

    生成AIにおいては、推論コストが急速に増えており、ChatGPTの利用者が増えれば増えるほど、必要な計算量と電力消費も増えており、これを賄うために開発されたようです。

    これまでは、NVIDIA製GPUが中心だったのですが、GPUは汎用性が高い反面、特定用途では最適とは限らず、推論だけに特化した半導体を開発することで、

    • 応答速度を改善できる
    • 消費電力を削減できる
    • 運用コストを下げられる

    という効果が期待できるようです。

    同様の動きはAI業界で広がっている

    今回のニュース、OpenAIだけが独自チップへ進んでいるわけではなくて、現在大手IT企業が用途特化型チップの独自開発を進めていて、代表的なものとしては、以下の企業がすでに独自開発しています。

    • NVIDIA:汎用GPUで市場をリード
    • Google:TPUを自社開発
    • Meta:AI専用チップを開発

    これまでは「高性能GPUを購入する競争」だったものが、「自社サービス向けに最適化した半導体を設計する競争」へと移ってきており、AI戦争は新たな局面に向かっています。


    今後の注目点

    現時点では性能の詳細は公開されておらず、初期試験では「他社の最先端品を上回る性能」とだけ説明されています。

    比較条件や仕様は、今後明らかになるようですが、気になるのは次の3点。

    • 実際の性能
    • 消費電力の改善幅
    • ChatGPT利用料金への影響

    もし推論コストを大幅に削減することができれば、高性能AIがより低価格で提供される可能性がありますが、そこまで大きな改善がない場合は、利用者がどんどん増えてきていることから設備投資が必要となり、これまでの価格底での運用も難しくなってきそう。


    今回の発表は、新しいAIチップの登場したという話題だけでなく、AI業界の競争が「モデル開発」から「AIインフラの最適化」へ広がっていることを示す出来事といってもいいでしょう。

    今後はモデル性能だけでなく、半導体・電力・データセンターまで含めた総合力が、AI企業の競争力を左右する可能性が高くなってきました。

  • 健康管理AIが新しい巨大市場になる理由

    健康管理AIが新しい巨大市場になる理由

    AIは医療業界の収益構造を変える可能性がある

    健康管理AIの本質は、便利な健康機能ではなく、予防医療市場の拡大だ。

    これまでの医療は、病気になった後に診断と治療を行う仕組みだったが、AIは違う。

    睡眠、心拍、ストレス、活動量などを継続的に分析し、異常の兆候を早期に検出する。

    つまり収益の中心が「治療」から「予防」へ移る可能性が大いにあり、この変化は医療機関だけでなく、保険会社やテクノロジー企業にも大きな影響を与えていくはず。

    なぜ予防医療市場が拡大するのか

    予防医療は以前から存在していたとはいえ、継続的な管理には課題があり、人は毎日体調を記録できなかった。

    睡眠時間を正確に管理できなかったり、ストレス状態も客観的に把握しにくかったものだが、AIはこの問題を解決してくれる。

    ウェアラブル機器やスマートグラスから取得したデータを24時間分析し、その結果、病気の発症後ではなく発症前への投資が増えていく。

    企業にとっても医療費削減につながるため導入メリットが大きい。

    健康管理AIで利益を得る企業は誰か?

    この市場で利益を得る企業は複数存在する。

    ウェアラブル機器メーカー

    データ取得の入口を握り、スマートウォッチやAIグラスの普及は市場拡大の前提条件となる。

    AIプラットフォーム企業

    取得したデータを分析、将来的な競争力はデータ量と分析精度で決まっていく。

    保険会社

    ここは大きな変化が起きる可能性があり、従来は病気になった後の保障が中心だったものが、予防支援サービスへ事業領域を広げる余地があ、勢力図も大きく変化していきそう。

    医療プラットフォーム企業

    オンライン診療や健康管理サービスとの連携が進んでいき、診断前の段階から顧客接点を持てるようになっていく。

    病院や健康診断ビジネスはどう変わるのか

    健康管理AIが普及しても病院は不要にならないし、診断や治療は引き続き医療機関の役割となるが、それでも現在のやり方は変化していく。

    これまで、医療機関が異常を発見し、診断・治療にあたっていたものが、今後、AIが異常を検知し、医療機関が診断・治療という分業が進んでいく可能性がある。

    健康診断も同様で、年1回の検査だけではなく、日常データを組み合わせた評価が重視される可能性がある。

    最大の課題は健康データの所有権

    市場拡大の最大の障壁は技術ではなく、データの扱いであり、健康情報は最も重要な個人情報の一つであり、誰が保有するのか?どこまで利用できるの?保険料算定に利用できるのか?企業が従業員データを活用できるのか?

    これらのルールが整備されなければ市場拡大は限定的になりそうだが、そんな中でもデータ管理の信頼を確立した企業が優位に立っていく。

    今後3年で注目すべきポイント

    健康管理AI市場を見る上で重要なポイントは3つある。

    1. ウェアラブル機器の普及率。
    2. AI分析精度の向上。
    3. データ保護に関する規制整備

    この3つが進めば、健康管理AIは一部の健康意識が高い人向けのサービスではなくなり、日常インフラへと近づく。

    つまり、健康管理AIの競争は、健康機能の競争ではなく、データの競争であり、今後の勝者は、より多くの健康データを取得し、より正確に分析し、利用者の信頼を獲得した企業となる。

    医療業界の変化として見ると、健康管理AIは単なる便利機能ではなく、予防医療市場そのものを拡大させる可能性を持っていて、その結果、医療、保険、ウェアラブル機器、AIプラットフォームの境界線は徐々に曖昧になっていく。