企業を守るために、AIを使って自社のシステムを24時間「攻撃」する。
一見矛盾しているように見えますが、いまやAIを使ったセキュリティ対策は、警告を分析するだけでなく、AI自身に弱点を探させるところまで進んでいます。
Palo Alto Networksは9月22日、AnthropicのClaude Mythos 5やOpenAIのGPT-5.6-Cyberなどの複数のAIモデルを使い、企業システムの脆弱性を継続的に探すサービスを発表しました。
WebアプリやAPI、クラウド環境を常時テストし、問題が見つかるのを待つのではなく、AIを動かし続けて先に弱点を探し出すもので、なぜ守る側までAIを常時動かす必要が出てきたのでしょうか。
AIが攻撃経路を探し、修正まで提案する
Palo Alto Networksのサービスが対象とするのは、Webアプリ、API、クラウド環境で、複数のAIモデルを利用し、これらを継続的にテストして脆弱性を探し、単発の検査を行うのではなく、常時テストすることが前提になっているのが特徴。
AIが行うのは弱点の発見までではなく、見つけた脆弱性に対して攻撃経路を探し、その結果をもとにコード修正や仮想パッチまで提案してくれます。
企業側から見ると、「問題を見つける」「どこから攻撃される可能性があるかを調べる」「修正方法を考える」という処理が、一連の流れとしてつながることになり、これが「AIで自社を攻撃する」という言葉の中身となります。
実際の攻撃を受けるまで待つのではなく、自社側でAIを動かし、攻撃を模したテストによって弱点を先に探し出す。
セキュリティ対策というと、外部から来た攻撃を検知して止める姿を想像しやすいものですが、この仕組みでは攻撃される前の探索にAIを投入しています。
AIを使う意味も、単純な作業の省力化とは少し異なり、脆弱性を探す処理そのものを継続して動かすことで、セキュリティ対策の時間軸が変わり、問題が起きた後に対応するだけではなく、問題になり得る場所を平常時から探し続ける運用となっています。
攻撃側が高速化すれば、防御側も待っていられない
こうした仕組みが必要になる背景には、AIが攻撃側でも利用できるという事情があり、分析では、攻撃側がAIを使えば、「脆弱性探索→攻撃方法生成→試行→修正→再試行」という一連の処理を高速で繰り返せるとされています。
人間が一つの問題を確認し、対応を考え、次の問題を調べるという進め方では、この反復速度に追いつきにくくなります。
攻撃側が探索や試行をAIで高速化するなら、防御側にも同じ速度で弱点を探し続ける仕組みが必要になり、Palo Alto Networksが継続的な脆弱性探索へAIを使うサービスを投入したことは、この構造とぴったりと重なります。
これまでのAI活用を、人間のセキュリティ担当者を補助する道具として捉えるなら、今回の仕組みはさらに自動化の範囲を広げていて、人間が調べるためにAIへ質問するのではなく、AIを常時稼働させ、システムをテストし続けるという流れに傾いています。
攻撃側と防御側の双方でAIが継続的に動くようになれば、サイバーセキュリティは、人間同士の攻防をAIが補助する段階から、AI同士が継続的に攻防する段階へ移る可能性も出てきます。
すでに企業全体でそうなったという話ではないのですが、継続的なAIによる脆弱性探索が実際のサービスとして登場したことで、その兆しは具体的な形になり始めています。
AIエージェントが動けば「権限」も守る対象になる
守る対象にも変化が出ています。
同じ週、企業向けセキュアブラウザを提供するIslandは4億ドルを調達し、企業価値は64億ドルに上昇しました。その成長要因として挙げられているのが、AIエージェントの利用に伴う新しいセキュリティ上の課題です。
AIエージェントは、ブラウザを使って企業システムへアクセスすることがあり、人間がブラウザを操作するだけだった環境に、AI自身が操作する場面が加われば、どの情報へアクセスできるのか、どこまで操作を許すのかという権限管理も防御の対象になります。
AIエージェントを利用する企業にとっては、外部から侵入される経路だけを管理すれば済むわけではなく、内部で動かすAIに何を許可するかも情報漏洩と関係してきます。
この先、AIエージェントの権限制御やAI操作専用ブラウザ、異常なAI行動を自動停止する仕組みが、企業のセキュリティ運用で一般化する可能性があり、AIによる24時間の脆弱性探索と組み合わされれば、「外からどう攻撃されるか」を調べる仕組みと、「中で動くAIに何をさせるか」を管理する仕組みが並行して動くことになります。
AIエージェントが企業システムを実際に操作する用途へ進むほど、防御側が管理するものも増えていき、AIを導入することと、そのAIが持つ権限を管理することが、同じ運用の中で扱われるべきものとなります。
人間は「全部を見る」役割から変わる可能性
脆弱性探索をAIが24時間続け、問題が見つかれば修正コードや仮想パッチまで提案、さらにAIエージェントの権限や異常な行動も管理する。
こうした仕組みが一般化していけば、人間のセキュリティ担当者が担う仕事も変わっていくことでしょう。
人間がすべての警告を一件ずつ確認する方法は、AIによる探索や試行の速度が上がるほど負担が大きくなります。
探索や修正支援をAIへ任せられる範囲が増えれば、人間はすべての処理へ直接関与するのではなく、その中で重要な判断を引き受ける役割へ移っていく可能性があり、これは人間の担当者が不要になるという話ではなく、人間が直接処理する範囲とAIへ任せる範囲の分担が変わるということなのでしょう。
「AIで自社を攻撃する」という発想も、この流れの中で見ると意味が変わり、攻撃を受けた後に人間が対応するのを待つのではなく、防御側でもAIを継続的に動かして弱点を探しておく。
AI時代のサイバーセキュリティを見るときは、攻撃側の能力がどこまで高まるかとともに、守る側がどこまでAIへ任せるようになるのかも、企業のセキュリティ運用を捉える材料になってきます。
思考を外に出せ。AIを、自分の武器にする。

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