AIがサイバー攻撃を助けるだけでなく、コンピューターの弱点を見つけ、攻撃方法を考え、修正まで進める段階に近づいています。
OpenAIとGoogleは9月、こうした高度なAIを一般向けとは分け、防御側の企業や政府などへ提供する動きを相次いで発表、AIの性能向上とともに「誰に、どこまで使わせるか」が重要になってきています。
AIは「弱点を教える」から「自分で探す」段階へ
これまでAIをセキュリティに使う場合、専門家がAIにコードを見せ「この部分に問題はないか」「どう直せばいいか」と質問する形が主流だったのですが、ここ最近AIエージェントの能力が高まってきたことから事情が変わってきます。
AIエージェントは、人間が一つひとつ指示しなくても、目的に向かって複数の作業を続けて実行するAIであり、「このシステムに弱点がないか調べる」と指示した場合、AIがコードを読み、問題になりそうな場所を探し、実際に試し、結果を確認し、別の方法を試すといった作業を連続して行ってくれます。
9月1日、OpenAIは新モデルAstraについて、同社の基準で初めて「Critical」と呼ぶ高度なサイバー能力に達していて、OpenAIの評価では、既に知られている脆弱性から攻撃コードを作るテストで100%を記録。
さらに2026年6〜8月に公開された高深刻度の脆弱性20件を使った社内評価では、評価中に2件の未知の脆弱性を発見し、攻撃に利用したのだそうです。
これらについては、あくまでもOpenAI自身による評価であり、第三者が同じ結果を確認したわけではありませし、テストで100%だったからといって、現実のシステムへ100%侵入できるという意味でもありません。
それでも重要なのは、AIの役割が変わり始めていることであり、AIは、人間に聞かれたことへ答えるだけでなく、自分で弱点を探して次の作業へ進む存在になりつつあります。
攻撃AIが強くなるなら、防御側も「早く直す」必要がある
AIが弱点を探す能力を高めれば、企業にとっては当然、心配事も増えることに。
これまで脆弱性を見つけて攻撃するには、専門知識と時間が必要だったのですが、AIがその作業を短時間で進められるようになれば、攻撃側の作業も一段と速くなる可能性があります。
そこで重要になるのが防御側のスピードで、弱点が見つかってから攻撃されるまでに時間があるなら、その間に修正すれば被害を防ぐことができますし、「攻撃されないようにする」だけでなく、「弱点を見つけたら、攻撃される前に直す」ことが重要になってきます。
AIが脆弱性を見つけるだけでなく、修正まで担う段階へ
Googleは9月3日、サイバーセキュリティ向けの「Gemini 3.8 Flash Cyber」を発表し、この特徴は、弱点を探すだけではなく、見つかった問題に対し、修正用のパッチを作ることにも重点が置かれいます。
Googleによれば、20種類のプログラミング言語を対象とした社内評価で、脆弱性の検出成功率は70%を超え、またChromeでは、大規模な商用モデルと比較して2.6倍の正確なパッチを生成したとしています。
これもGoogle自身による評価なので、すべての企業やシステムで同じ結果になるとは限りませんが、それでもその方向性は分かります。
AIの競争が「どれだけ弱点を見つけられるか」から、「見つけた弱点をどれだけ早く安全に直せるか」へ広がっているのです。
だから「強いAI」を誰にでも渡すわけではない
普通のAIなら、多くの人が同じモデルを使っても大きな問題にならないのでしょうけど、AIがコンピューターの弱点を探し、攻撃方法まで考えられるようになると話は変わってきます。
便利な能力である一方、悪用されれば危険になるわけで、そのためOpenAIは、Astraの高度なサイバー能力を一般利用と同じ条件では提供せず、利用範囲を限定しています。
これは、Googleも同様で、Googleは「Fairwind Program」を開始し、政府機関、重要インフラ事業者、セキュリティ企業など、防御を目的とする組織へ高度なサイバーAIを優先的に提供していくそうで、Googleによれば、参加パートナーは650を超えているのだとか。
ここからAIサービスの考え方が変わり始めていることが示されています。
これまでは「高性能なAIを作り」「できるだけ多くの人に提供する」という考え方が基本となっていたのですが、これからの高度なサイバー能力については、「高性能なAIを作り」「誰が使うのか確認し」「目的に応じて使える能力を決める」という仕組みが必要になってきます。
つまり、AIの性能だけでなく、AIへの「入場制限」も製品の一部になり始めたということです。
企業にとっては「AIを使うか」より「何をさせるか」が重要に
この変化は、セキュリティ専門家だけ話ではなく、企業がAIエージェントを仕事で使ううえでも、同じ問題が出てきます。
例えば、社内の文章を検索するだけのAIなら、比較的リスクは小さいのでしょうけど、「社内システムを調べる」「プログラムを書き換える」「ファイルを削除する」「外部サービスを操作する」といった権限までAIに与えれば、できることは大きく増え、その分、AIが間違えたときの影響も大きくなってしまいます。
そのため企業では、AIを導入すること自体よりも、AIにどこまで権限を与えるのかが重要になり、特に重要なシステムでは、AIが作った修正をそのまま反映させず、人間が確認してから実行する仕組みが必要になるでしょう。
操作記録を残したり、問題が起きたときに元へ戻せるようにしたりすることも重要であり、これは「AIを信用するか、信用しないか」という話だけでなく、AIに任せる仕事が増えるほど、AIが間違えても被害を広げない仕組みが必要になるということです。
私たちの生活では「AI」よりインフラの防御力が変わる
一般の利用者が、Astraや高度なサイバーAIを直接使うことはないでしょうけど、それでも無関係とは言い切れません。
私たちが日常的に使っている銀行、病院、自治体、水道、電力などのシステムも、サイバー攻撃の対象になりますし、もしAIによって古いプログラムの弱点を短時間で見つけられ、修正まで早くできるようになれば、こうしたサービスの防御力を高められていくはずです。
「見つける」だけでは防御にならない
今回のOpenAIとGoogleの動きで、サイバー防御の考え方は明確に変わり始めています。
これまでAIによるセキュリティ対策では「人間より多くの脆弱性を見つけられるか」が大きなポイントでしたが、脆弱性を見つけるだけでは防御は完了しません。
弱点が見つかれば、その情報をもとに攻撃される可能性があり、だからこそ重要になるのが、発見した弱点をどれだけ早く修正できるかということ。
Googleが発表したGemini 3.8 Flash Cyberは、脆弱性を探すだけでなく、修正用のパッチ作成までAIに担わせており、OpenAIもAstraによる高度な脆弱性発見と、Daybreakを通じた防御側への提供を進めています。
つまり、AIの役割は「弱点を教えるところ」で止まらず、弱点を見つけ、修正するところまで広がっているわけです。
これから企業のサイバー防御で問われるのは、脆弱性が発見されてから修正が完了するまでの時間。
人間が調査し、原因を確認し、修正方法を考え、コードを書き、テストしていた作業をAIが短縮できれば、攻撃者に与える時間を減らすことができます。
逆に、AIが未知の脆弱性を発見できても、修正に時間がかかるなら、防御側の優位にはつながりません。
サイバー攻撃では、「いつ攻撃されるか」を完全に予測することはできません。
だからこそ、防御側がコントロールできるのは、弱点を見つけてから塞ぐまでの時間の短縮であり、AIによってこの時間を大幅に短縮できるなら、サイバー防御の仕組みそのものが変わっていくはずです。
思考を外に出せ。AIを、自分の武器にする。

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